失業保険(正式には「雇用保険の基本手当」)は、離職後の生活を一時的に支える制度です。ただし、退職すれば誰でも自動的にもらえるわけではなく、受給にはいくつかの条件があります。
「どんな働き方なら対象になる?」「自己都合でもすぐにもらえる?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、失業保険を受け取れる人・受け取れない人の違いをわかりやすく整理し、例外的な受給パターンや確認方法も含めて解説します。
失業保険をもらうための基本的な条件とは?
失業保険を受け取るには、主に3つの条件をすべて満たす必要があります。

上記の3つの条件は、いずれかが欠けていても受給できません。
ここからは、それぞれの条件についてもう少し詳しく見ていきましょう。
雇用保険の加入期間に関するルール
原則として、退職前の2年間に通算12ヶ月以上、雇用保険に加入して働いている必要があります。ただし、会社都合などの場合は要件が緩和され、過去1年間に6ヶ月以上でも受給可能です。
離職理由 | 必要な被保険者期間 |
---|---|
会社都合退職 | 離職日以前の1年間に通算6ヶ月以上 |
自己都合退職 | 離職日以前の2年間に通算12ヶ月以上 |
※1ヶ月とは「賃金支払基礎日数が11日以上ある月」を指します。
「失業状態」の定義とチェックポイント
失業保険は、単に「無職である」だけでは受け取れません。「すぐに働ける状態」であることが必要です。
チェックポイント
- 就職の意思がある(働きたくないという気持ちでは対象外)
- すぐに働ける健康状態である(病気や出産で就労できない場合はNG)
- 実際に求職活動を行っている
たとえば、「1ヶ月休んでから働きたい」「子どもが落ち着いてから働きたい」といった状況では、就職に向けた積極的な活動がないと判断されるため、「失業状態」とは見なされません。
「就職の意思がある」とは何を指すのか?
就職の意思があるとは、「すぐに働く意志があり、実際に行動していること」を意味します。 失業保険は、“就職に向けて動いている人”を支援する制度のため、「そのうち働きたい」「気が向いたら働く」といった考え方では対象になりません。
活動として認められる行動例
- ハローワークでの職業相談や紹介
- 求人サイトや企業への応募
- 就職説明会・セミナーへの参加
- 一定の条件を満たす資格取得講座への参加
これらの行動を、4週間のうちに2回以上おこない、「失業認定申告書」に記入して提出します。活動回数が足りなければ、その期間の給付は行われません。
就職する意志は、言葉ではなく行動にあらわれます。継続的な求職活動が受給の前提です。
こんなケースは要注意!受給できない・遅れる例
条件を満たしているつもりでも、実際には受給できなかったり、支給開始が遅れたりするケースがあります。
ここでは、注意したい具体例を紹介します。
自己都合で離職してすぐ申請した場合(2025年4月以降の制度対応)
自己都合で退職した場合も、失業保険を受け取ることは可能です。ただし、会社都合の場合とは、支給までのタイミングや給付制限の扱いに大きな違いがあります。
その違いを、以下の表で整理しました。
比較項目 | 自己都合退職(原則) | 自己都合退職(例外) | 会社都合退職 |
---|---|---|---|
待機期間 | 7日間 | 7日間 | 7日間 |
給付制限 | 1ヶ月※ | 最大3ヶ月 | なし |
支給開始の目安 | 約1ヶ月半後 | 約2〜3ヶ月後 | 約1週間後 |
原則として、自己都合退職には1か月※の給付制限が設けられています。
ただし、次のようなケースに該当すると、給付制限が最大で3か月に延長される可能性があります。
- 過去5年以内に、自己都合退職で失業給付を2回以上受給している
- 本人に重大な過失がある退職(重責解雇)と判断された場合
また、退職の背景にパワハラや長時間労働などの問題があるときは、給付制限ではなく、離職理由の取り扱いそのものが見直されることがあります。
一見すると自己都合に見えても、実態によっては会社都合と判断されるケースもあります。離職票に「自己都合」と記載されていても、それがすべてを決めるとは限りません。
診断書や申立書などを提出することで、取り扱いが変更される可能性も十分に考えられます。
※2024年5月に雇用保険法が改正され、給付制限は従来の2ヶ月から1ヶ月に短縮されました。
パート・アルバイトで勤務日数が足りない
パート・アルバイトでも雇用保険に加入していれば受給対象になりますが、以下の条件を満たしていない場合は対象外です。
- 加入対象となる基準
- 所定労働時間が週20時間以上
- おおむね31日以上継続して雇用される見込みがある
※31日という日数は法律上の明記ではなく、実務上の目安です。
参考: 厚生労働省「雇用保険の概要」
扶養内・短期契約など「対象外」になりやすいパターン
以下のような雇用形態は、失業保険の対象外になりやすいです。
- 昼間学生のアルバイト
- 扶養内でのパート(週10時間前後)
- 1カ月未満の短期契約派遣
雇用契約書や給与明細で、労働時間や雇用期間を事前に確認しましょう。
特定の人だけが対象になる「例外条件」とは?
通常の条件に当てはまらなくても、優遇条件で失業保険を受給できるケースがあります。
ここでは、支援の対象となる代表的な制度である「特定理由離職者」と「就職困難者」について解説します。
自己都合でも受給できる「特定理由離職者」の扱い
自己都合のように見えても、「やむを得ない事情」があると判断されれば、「特定理由離職者」として会社都合に準じた扱いを受けられます。
認められやすい理由には、次のようなものがあります。
- 介護や育児、本人の病気などにより継続就労が困難になった場合
- 災害や配偶者の転勤などによる通勤困難(※単なる引越しは対象外)
- 契約更新を希望していたにもかかわらず、雇用主の都合で打ち切られた場合
- 給与の未払い、長時間労働、パワハラなどにより就労が継続できなかった場合
申請時に離職理由をしっかり説明し、診断書や証拠があれば、会社都合と同様にすぐ受給が始まる可能性があります。
就職が難しい人に適用される「就職困難者」の特例
就職が一般的に難しいとされる人には、「就職困難者」として特別な支給条件が設けられています。
該当するのは、次のようなケースです。
- 65歳未満の高年齢者(特に60歳以降で就職が困難と判断される場合)
- 身体・知的・精神に障害のある方
- 母子・父子家庭の親(ひとり親)
- 刑務所出所者、DV被害者、更生保護施設退所者など(※ハローワークの判断による)
該当する属性にあてはまる場合、ハローワークの判断によって「就職困難者」として認定され、特別な支給条件が適用されることがあります。ただし、離職理由によっては給付制限がかかるケースもあるため、事前に相談して確認しておくことが大切です。
この特例では、基本手当の給付日数が通常より長くなるのが大きな特徴です。例えば、45歳以上で1年以上の被保険者期間がある場合、通常90日間のところ、最大で360日間まで延長されることがあります。
また、職業訓練や再就職支援も重点的に実施されるなど、長期的なサポートを前提とした制度設計となっているのが特徴です。就職に不安を抱える人でも、自分のペースで次の一歩を踏み出せるよう配慮されています。
自分が条件に当てはまるかを確認する方法
「自分は受給できるのか」「会社都合として扱われるのか」を調べるには、手元の書類やハローワークでの確認が重要です。
雇用保険被保険者証や離職票の見方
まずは離職票の「離職理由欄」や「被保険者番号」などを確認しましょう。
確認すべきポイントは、以下のとおりです。
- 離職理由コード:自己都合か会社都合か
- 被保険者期間:6ヶ月または12ヶ月以上あるか
- 基礎日数:各月11日以上働いたか
記載内容に納得できない場合は、ハローワークで申立てが可能です。
ハローワークでの確認手順と相談の流れ
迷ったら、最寄りのハローワークに相談するのが確実です。受給資格や離職理由の扱いに不安がある場合でも、窓口で相談することで制度の適用可否を丁寧に案内してもらえます。
相談時は、まず離職票や本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証など)を持参しましょう。受付後、離職理由や雇用保険の加入期間について職員と面談し、必要に応じて申立書や診断書などの追加資料を求められることがあります。
内容の確認と認定が終わると、雇用保険受給説明会の日程が案内され、参加後に正式な手続きが完了します。
まとめ
失業保険は、一定期間の雇用保険加入・失業状態・就職の意思という3つの条件をすべて満たした場合に受給できます。特に自己都合退職では給付開始が遅れやすく、パート勤務などではそもそも対象外になる場合もあります。
一方で、特定理由離職者や就職困難者など、配慮された制度が用意されているケースもあります。「自分はダメかも」と思っても、まずは離職票の内容を確認し、ハローワークで相談してみましょう。制度を正しく理解することが、退職後の不安を減らす第一歩となります。