精神科の診断書は、うつ病や統合失調症、双極性障害といった精神疾患により、思考や感情、行動に著しい支障が生じ、専門的な治療と休養が必要であることを公的に証明する書類です。休職や障害年金、精神障害者保健福祉手帳の申請に不可欠であり、費用は目的によって異なりますが、一般的な休職用で3,000円から5,000円程度が目安です。
この記事では、精神科の診断書が必要になる場面、記載される内容、発行までの流れ、費用、提出時の注意点、そして診断書を活かした休養期間の過ごし方まで、網羅的に解説します。
精神科の診断書はどのような場面で必要?
精神科の診断書は、気分の落ち込みや不安といった症状だけでなく、幻覚、妄想、重度の意欲低下など、精神機能の障害によって日常生活や就労が著しく困難になった場合にその必要性が高まります。単なる「体調不良」ではなく、専門的な治療を要する「精神疾患」であることを証明する重要な役割を担います。
具体的には、以下のような場面で診断書の提出を求められます。
- 精神疾患(うつ病、統合失調症など)を理由に会社を休職するとき
- 障害年金(精神の障害)を申請するとき
- 精神障害者保健福祉手帳を申請するとき
- 自立支援医療(精神通院医療)を申請するとき
- 成年後見制度の申し立てを行うとき
参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
精神科で発行してもらう診断書に記載される内容
精神科の診断書には、休職や公的制度の審査に必要な情報が、精神医学的な観点から詳細に記載されます。特に、日常生活能力や就労能力への影響が客観的に示される点が特徴です。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 患者情報 | 氏名、生年月日、住所など |
| 傷病名 | うつ病、適応障害など、医師が診断した病名 |
| 発病年月日 | 症状が発現した時期や、初めて精神科を受診した日 |
| 症状・経過 | 具体的な心身の症状や、これまでの治療経過 |
| 今後の見通し | 治療継続の必要性や、復職の見込みなど |
| 休職の必要性 | 「上記の傷病のため、〇ヶ月間の休養を要する」といった記載 |
| 医療機関情報 | 病院名、所在地、医師名、押印など |
うつ病などの具体的な病名を会社に知られたくない場合、医師にその旨を相談すれば、「抑うつ状態」「ストレス性反応」といった、より広い範囲を示す表現で記載してもらえることがあります。ただし、傷病手当金などの申請では、審査のために詳細な病名が必要となる場合があります。
精神科で診断書をもらう流れ
まずは精神科を標榜する医療機関に連絡し、予約を取ります。症状が重く緊急性が高い場合は、その旨を伝えて相談しましょう。
診察では、どのような精神症状で困っているのか、それがいつから、どのようなきっかけで始まったのかを詳しく伝えます。必要に応じて心理検査や血液検査などが行われ、総合的に診断が下されます。
医師から診断結果と治療方針の説明を受けた後、「休職のため」「障害年金を申請するため」など、診断書の目的と提出先を明確に伝えて発行を依頼します。
公的制度の申請用診断書は、書式が複雑で作成に時間がかかる場合があります。受け取ったら、記載内容に間違いがないか必ず確認しましょう。
会社の人事部、年金事務所、市区町村の障害福祉担当課など、それぞれの提出先に提出します。
近年では、通院が困難な方向けに、オンライン診療で診察から診断書の郵送まで対応するクリニックも増えています。
診断書の費用と発行にかかる期間
診断書の発行は治療行為ではないため健康保険の適用外(自費)ですが、傷病手当金や一部の公費負担医療の申請書は保険適用となります。
| 診断書の種類 | 費用相場 |
|---|---|
| 一般的な診断書(休職・休学用) | 3,000円~6,000円程度 |
| 精神障害者保健福祉手帳用診断書 | 5,000円~6,000円程度 |
| 障害年金用診断書 | 8,000円~15,000円程度 |
| 傷病手当金支給申請書(医師意見書) | 保険適用(3割負担で300円) |
一般的な診断書であれば、診察当日に即日発行されることも多いですが、症状の判断が難しい場合や、障害年金用など複雑な書類の場合は、数週間かかることもあります。必要な場合は早めに医師に相談しましょう。
診断書を提出した後の流れ
診断書は、治療と社会復帰への第一歩です。特に精神科の診断書は、その後の生活を支える様々な制度に繋がっています。
- 休職と治療への専念
診断書を提出して休職することで、安心して治療に専念できます。薬物療法や精神療法を通じて、症状の安定を目指します。 - 経済的支援の活用
休職中は「傷病手当金」が生活を支えます。さらに、障害の程度に応じて「障害年金」や「自立支援医療」などの公的支援を活用し、経済的な不安を軽減できます。 - 復職(リワーク)支援
症状が安定したら、主治医や専門の支援機関(リワーク施設など)と相談しながら、職場復帰を目指します。必要に応じて、配置転換や時短勤務など、職場環境の調整を会社に依頼することも重要です。
参考:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき」
心療内科の診断書で「できること」と「できないこと」
診断書は強力な証明書ですが、万能ではありません。その効力の範囲を正しく理解しておくことが大切です。
| 項目 | できること・できないこと |
|---|---|
| 休職の証明 | ○ (医師の判断として休養の必要性を示せる) |
| 傷病手当金の申請 | ○ (申請書内の医師意見書が診断書の役割を果たす) |
| 解雇の無効化 | × (診断書があっても、会社の就業規則や経営状況によっては解雇される可能性はある) |
| 異動・配置転換の強制 | × (あくまで「お願い」の根拠であり、最終的な判断は会社が行う) |
診断書はあくまで「現時点での治療と休養の必要性」を示すものであり、裁判などでの絶対的な法的証拠書類とは性質が異なります。
精神科で診断書をもらったら傷病手当金を活用して休職をしよう
診断書を提出して休職が決まっても、給与が支払われなくなるケースがほとんどです。その間の生活を支えるために、健康保険の「傷病手当金」という制度があります。
これは、病気やケガで連続して4日以上仕事に就けず、給与の支払いがない場合に、給与のおおよそ3分の2が支給される制度です。精神疾患による休職も対象となります。
診断書をもらうことは、キャリアの終わりではありません。むしろ、心と体を回復させ、自分らしい働き方を再設計するための大切な第一歩です。傷病手当金などの制度を賢く活用し、安心して治療に専念しましょう。
参考:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき」
精神科の診断書に関するよくある質問
精神科の診断書に関するよくある質問を紹介します。
- 統合失調症や双極性障害でも、診断書はすぐにもらえますか?
- これらの疾患の診断は、症状の経過を慎重に観察する必要があるため、初診で診断書が発行されることは稀です。一般的には、数ヶ月間の通院を経て、診断が確定した後に、目的に応じた診断書が作成されます。
- 診断書があれば、必ず障害年金や手帳が取得できますか?
- いいえ、必ず取得できるわけではありません。
診断書は最も重要な審査書類ですが、最終的な判断は、年金事務所や自治体が、診断書の内容や本人の生活状況などを総合的に審査して決定します。
- 会社に提出する診断書の病名を、伏せてもらうことはできますか?
- 主治医に相談することは可能です。
ただし、休職の正当性を会社が判断するため、また、安全配慮義務を果たすために、ある程度の情報開示は必要となる場合があります。どこまで伝えるべきか、主治医とよく相談しましょう。
まとめ
精神科の診断書は、うつ病や統合失調症、双極性障害といった精神疾患により、思考や感情、行動に著しい支障が生じ、専門的な治療と休養が必要であることを公的に証明する書類です。単なる体調不良ではなく、専門的な治療を要する精神疾患であることを証明する重要な役割を担います。
必要な場面は、会社を休職するとき、障害年金を申請するとき、精神障害者保健福祉手帳を申請するとき、自立支援医療を申請するとき、成年後見制度の申し立てを行うときです。
記載される内容は、患者情報、傷病名、発病年月日、症状・経過、今後の見通し、休職の必要性、医療機関情報です。具体的な病名を会社に知られたくない場合、医師に相談すれば抑うつ状態やストレス性反応といった広い範囲を示す表現で記載してもらえることがあります。
診断書提出後は、休職と治療への専念、傷病手当金などの経済的支援の活用、症状が安定したら復職支援という流れです。診断書でできることは休職の証明と傷病手当金の申請で、できないことは解雇の無効化や異動・配置転換の強制です。診断書は終わりではなく、心身を回復させ自分らしい働き方を再設計するための第一歩です。精神科の診断書について詳しく知りたい方はぜひ参考にしてみてください。



