失業保険(雇用保険の基本手当)は、引っ越しをしても継続して受給できます。ただし、受給前の引っ越しと受給中の引っ越しでは手続きの流れが異なり、住所変更に伴う複数の届け出が必要になります。
手続きを誤ると一時的に給付が保留される恐れもあるため、事前に正しい流れを理解しておくことが大切です。
この記事では、受給前・受給中それぞれのケースに分けて、必要な書類や注意点を解説します。さらに、就職に伴う引っ越しで利用できる「移転費」の制度についても紹介します。
受給前に引っ越した場合の手続きと注意点
失業保険の受給申請前に引っ越しをする場合は、基本的に「新住所を管轄するハローワーク」で申請を行えば問題ありません。
重要なのは、住民票の異動とあわせて手続きを済ませることです。
参考:ハローワークインターネットサービス「雇用保険手続きのご案内」
退職と同時に引っ越すときの流れ

退職と同時に引っ越す場合は、次の流れを意識してください。
- 退職後、会社から離職票を受け取る
- 引っ越し後に住民票の異動を行う
- 新住所を管轄するハローワークで受給申請をする
離職票の住所が旧住所のままでも申請できます。原則はマイナンバーカードや運転免許証(新住所に変更済み)で現住所を確認できれば足りますが、場合によっては住民票の提出を求められることもあります。
申請前に引っ越す場合に必要な準備
申請前に引っ越す場合は、次の準備が重要です。
- 新住所を管轄するハローワークを確認しておく
- 離職票が新住所に届くよう郵便転送を設定する
- マイナンバー関連書類の住所変更を住民票と同時に済ませる
これらを押さえておけば、申請時の書類不備や手戻りを避けられます。
受給中に引っ越した場合の手続きと注意点

受給中に引っ越す場合は、現在の受給資格を新しいハローワークに引き継ぐ必要があります。手続きを怠ると給付が一時的に保留される可能性があるため、注意してください。
引っ越し前にやること
引っ越し直前は、旧住所のハローワークで次の確認をしておきましょう。
- 受給資格者証や失業認定申告書に不備がないか
- 新住所の管轄ハローワークの確認
- 認定日が迫っている場合は前倒し認定の相談
受給継続の正式な手続きは新住所のハローワークで行います。旧管轄のハローワークには、移転予定を伝えておくと手続きがスムーズです。
引っ越し後にやること
新住所での生活が始まったら、速やかに新しいハローワークで「受給継続」の手続きを行います。
必要書類 | 提出先 | 注意点 |
---|---|---|
雇用保険受給資格者証 | 新住所管轄のハローワーク | 紛失に注意。再発行は時間がかかる |
本人確認書類(免許証、マイナンバーカード等) | 同上 | 住所が最新であること |
住民票(必要に応じて) | 同上 | 他の書類で代替できる場合あり |
印鑑(シャチハタ以外) | 同上 | 押印不要のケースもあるため事前確認を |
この手続きにより、支給残日数や求職活動実績が新しいハローワークに引き継がれます。以降は新しい認定日に従って、受給を継続できます。
認定日と引っ越しが重なる場合の対応
認定日前後に引っ越しが重なる場合は、旧住所のハローワークで前倒し認定を受けるのが最も確実です。
難しい場合は、新住所のハローワークで事情を説明し、新たに認定日を設定してもらいましょう。
その際は、前回認定日から次回までの「求職活動実績」が必要になります。
求職活動実績は引っ越し後も引き継がれる?
引っ越しても、それまでの求職活動実績は新しいハローワークに引き継がれます。
ただし、確実に反映されるよう応募書類や参加証明などを控えておくと安心です。
旧ハローワークでの実績はどう扱われる?
旧住所で積み重ねた求職活動実績は、新住所のハローワークに引き継がれます。
実績は失業認定申告書やハローワーク内部の記録をもとに確認され、必要に応じて新しい担当者が参照します。一方、雇用保険受給資格者証は資格内容や給付残日数を示す書類なので、役割を混同しないようにしましょう。控えを手元に残しておくと確実です。
応募書類の控えやセミナー参加証明書を持参しておけば、やり取りがスムーズに進み、認定時の誤解を避けやすいでしょう。特に引っ越し直後は確認事項が増える傾向にあるため、活動履歴を整理しておくことが安心につながるポイントです。
新住所での活動はどうカウントされる?
新しい住所での活動も、これまでと同様に実績として認められます。応募や職業相談、職業訓練、セミナー参加のほか、オンライン応募やハローワーク主催の説明会なども対象です。
地域ごとに求人動向や職業訓練の枠には違いがあるため、早めに新しいハローワークで相談すると効率よく実績を積み上げられます。
また、引っ越し直後は生活環境の変化で活動が滞りがちになるため、無理のない範囲で「最低限の活動」を計画的に続けることが大切です。
必要書類チェックリスト
引っ越しに伴う失業保険の手続きでは、書類の不備があると再来所や支給の遅れにつながることがあります。
特に「住民票」や「本人確認書類」は住所変更の反映に時間がかかる場合があるため、早めの準備が安心です。
書類 | ポイント |
---|---|
雇用保険受給資格者証 | 受給中の最重要書類。紛失時は再発行に時間がかかる |
本人確認書類 | マイナンバーカードや免許証。最新住所に修正しておく |
住民票(必要な場合) | 新住所確認のために提出を求められるケースがある |
印鑑 | シャチハタ不可。ただし押印不要のケースもあるので事前確認 |
家族の事情で引っ越す場合の注意点
結婚や配偶者の転勤など、家族の都合による引っ越しでも失業保険の基本的な手続きは同じです。
ただし、状況に応じて追加の対応が必要になることがあります。
結婚や扶養に伴う引っ越し
結婚により姓が変わる場合は、雇用保険受給資格者証の氏名変更手続きが必要です。戸籍謄本などの証明書が求められるため、準備しておきましょう。
配偶者の扶養に入る場合は、受給と扶養認定の時期が重なると影響が出る可能性があるため、事前に配偶者の勤務先や年金事務所に確認するのがおすすめです。
配偶者転勤・単身赴任による転居
配偶者の転勤を理由に離職した場合は『特定受給資格者・特定理由離職者』に該当するケースがあります。一方、既に受給中で引っ越す場合は、手続き自体は通常の住所変更と同様です。
実際の手続きでは、配偶者の転勤に伴うものであることを証明する資料が求められるケースがあります。その一例が「転勤証明書」で、提出すると手続きがスムーズに進みやすくなります。
また、単身赴任で配偶者のみが移動する場合は、受給者本人の住所に変更がなければ特別な手続きは不要です。
参考:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
住民票を移さないケースのリスク
住民票を移さないと、ハローワークからの重要な通知が届かない恐れがあります。
また、実際の居住地と住民票の住所が異なる場合、公的サービス利用に支障が出ることもあります。
正しい受給のためにも、住民票の異動は必ず行ってください。
移転費がもらえるケースとは?
移転費は、就職のために遠方へ転居する際に支給される雇用保険の給付です。
ハローワークなどの紹介による就職に限られ、交通費や引越費用の一部を補助してくれるため、新生活の経済的負担を軽減できます。
参考:厚生労働省「雇用保険制度の概要」
移転費の対象になる条件
移転費は「就職のために引っ越しが避けられない」と判断された場合に支給される制度です。対象となるのは、ハローワークまたは許可を受けた職業紹介事業者の紹介によって就職が決まった場合に限られます。自己応募での就職は対象外です。
また、就職先が遠方で通勤が現実的に困難であることが前提です。最終的には所長が住所移転の必要性を認めることが条件になるため、内定が出た段階で早めに相談しておくと安心です。
支給内容と金額の目安
支給される費用は大きく「交通費」「引越費用」「同居家族分」の3つに分けられます。
交通費は最も経済的な経路での実費が対象となり、引越費用も必要最小限の範囲に限られるのが特徴です。
項目 | 支給の考え方 |
---|---|
交通費 | 最も経済的な経路で実費支給 |
引越費用 | 必要最小限の実費、上限あり |
同居家族分 | 距離や人数に応じて変動 |
なお、実際の支給額は世帯構成や移転距離によって大きく変わるため、目安として理解しておくとよいでしょう。
申請の流れと必要書類
移転費の申請は、移転の日の翌日から1か月以内に行う必要があります。事前申請も可能なため、内定が決まった段階で早めに相談すると安心です。
申請にはいくつかの証明書類が必要で、事前に揃えておくことで手続きがスムーズに進みます。代表的なものは以下のとおりです。
- 採用通知書(内定が正式に決まったことを証明するもの)
- 引越費用の領収書や見積書
- 住民票の写し(必要に応じて)
内定通知を受け取った段階で準備を始めておけば、引っ越し後に慌てず申請できます。特に領収書や見積書は引越業者ごとに形式が異なるため、ハローワークに事前確認しておくとスムーズです。
まとめ
引っ越しをしても失業保険の受給は継続できますが、受給前と受給中で手続きが異なります。受給前は新住所のハローワークで申請し、受給中は新住所のハローワークで引き継ぎを行います。
認定日と重なる場合は前倒しや調整が必要です。さらに、遠方への就職に伴う引っ越しでは「移転費」が支給されるケースもあります。
いずれの場合も、手続きは早めに済ませ、疑問があればハローワークに確認しておくと安心です。