会社を辞めたあと、「退職金のようなものがもらえる」と聞いたことはありませんか?
そうした制度が「退職給付金」と呼ばれるもので、退職後の生活を支えるための大切なお金です。ただし、企業によって内容や条件が大きく異なり、「知らなかった」で損をすることもあります。
この記事では、退職給付金の基本から制度の種類、もらえる条件、確認方法までをわかりやすく整理しました。失業保険(正式には「雇用保険の基本手当」)との違いや注意点も含めて解説していきます。
退職給付金の基本と退職金・失業保険との違い
退職給付金と一言でいっても、その中身はさまざまです。
まずは「退職給付金とは何か?」という基本と、「退職金」「企業年金」「失業保険」との違いを整理しておきましょう。制度の全体像をつかんでおくことで、後の理解がスムーズになります。
退職給付金の定義と支給の目的
退職給付金とは、会社が制度に基づいて支給する退職後の金銭的給付の総称であり、退職金や企業が関与する年金制度などが該当します。
支給の目的は主に以下の3つです。
- 長期勤続への報酬として
- 退職後の生活安定のため
- 離職者の経済的不安の軽減
なお、支給されるかどうかは会社の制度に依存しており、法律で必ず支払う義務があるわけではありません。
退職金・企業年金・失業保険との違い
退職給付金と混同しやすいのが、「退職金」「企業年金」「失業保険」です。 それぞれの違いは次の表をご覧ください。
項目 | 退職給付金 | 失業保険 |
---|---|---|
支給元 | 勤務していた会社 | 国(ハローワーク) |
必ずもらえるか | 会社の制度次第(ない会社もある) | 条件を満たせば必ずもらえる |
加入条件 | 特になし(企業制度次第) | 雇用保険に加入していたか |
支給時期 | 退職直後が多い | 申請後1週間〜数ヶ月後 |
目的 | 長期勤務への報酬・老後資金 | 離職後の生活支援 |
どんな制度がある?退職給付金の種類と仕組み
退職給付金の制度にはさまざまな形があり、企業の規模や方針によって導入される仕組みが異なります。
ここでは、代表的な3つの制度を紹介していきます。
確定給付企業年金(DB)
の資金の流れ-1024x538.png)
確定給付企業年金(DB)は、企業があらかじめ定めた算出方法に基づき、給付額が一定のルールで決まる制度です。
企業が運用責任を負い、従業員に一定額を支給する仕組みになっています。
項目 | 内容 |
---|---|
給付額の決定主体 | 企業が責任を持って設計 |
掛金の拠出主体 | 主に企業(従業員は原則不要) |
運用リスク | 企業が負担 |
メリット | 将来の給付額がわかるため、老後の設計がしやすい |
デメリット | 企業側の負担が重く、制度廃止の傾向にある |
多くの大手企業がかつて採用していましたが、現在は制度維持の負担から縮小傾向にあります。
確定拠出年金(DC)
の仕組み-1-1024x538.png)
確定拠出年金(DC:Defined Contribution)は、企業や従業員が定期的に掛金を拠出し、その運用結果によって将来の給付額が決まる制度です。
いわば「自己責任型の年金制度」で、運用成果がよければ受け取れる金額も増えていきます。
項目 | 内容 |
---|---|
給付額の決定主体 | 運用結果により変動(企業は保証しない) |
掛金の拠出主体 | 企業または企業+従業員 |
運用リスク | 従業員本人が負う |
メリット | 自分で運用方針を選べる、転職しても持ち運べる |
デメリット | 投資知識がないと運用に不安が残る |
DC制度には企業型と個人型があり、個人型は「iDeCo(イデコ)」として知られています。
中小企業退職金共済・厚生年金基金など
中小企業では、独自の制度を持つのが難しいことから、外部機関による共済制度を利用するケースが一般的です。 代表的な制度を以下にまとめてみました。
中小企業退職金共済(中退共)
- 政府が運営する中小企業向けの共済制度
- 掛金は企業が毎月納付し、従業員が退職すると直接共済から給付が行われる
- 約36万社が加入しており、もっとも普及している制度のひとつ
特定退職金共済(特退共)
- 商工会議所などが提供する退職金共済制度
- 加入条件や掛金の仕組みは団体によって異なる
厚生年金基金(現在は原則新規設立不可)
- かつて存在した企業年金の一種で、現在は廃止・移行が進められている
- 過去に加入していた人は「企業年金連合会」などで記録を確認可能
参考:厚生労働省「中小企業退職金共済制度」
退職給付金を受け取れる条件と手続きの基本
退職給付金は、誰でも自動的にもらえるわけではありません。
企業が制度を導入しているか、どのくらい勤続していたか、退職理由は何かといった条件によって、支給の有無や金額が大きく変わります。
ここでは、受け取るために必要な条件と、実際の手続きの流れを解説します。
制度の有無・勤続年数・退職理由の影響
退職給付金をもらえるかどうかは、会社に制度があるか、どのくらい勤めていたか、どのように辞めたかで決まります。
特に以下のポイントを確認しておきましょう。
- 退職給付制度があるかどうか
- 勤続年数はどれくらいか(例:勤続3年以上で支給対象になる会社が多い)
- 退職理由が自己都合か、会社都合か(減額・不支給の可能性あり)
支給の有無は会社の制度に大きく依存しています。まずは自分の会社のルールを確認することが第一歩です。
申請の流れと給付時期の目安
退職給付金の申請は、基本的には退職後に会社からの案内に従って進めます。ただし、企業年金や共済制度など、外部機関を通す場合は別途手続きが必要なこともあります。
手続きの流れは以下の通りです。
- 退職給付金の一般的な流れ(企業型の場合)
- 退職届の提出・退職確定
- 会社から退職金(または年金)に関する書類が届く
- 指定の申請書に記入して返送
- 数週間〜1ヶ月程度で給付金が振込まれる
企業年金連合会や共済制度を利用していた場合
- 退職後に自分で年金機構や共済団体へ請求が必要
- 住所変更や口座情報の登録・確認を忘れずに行うこと
退職給付金を確認するときの注意点と失業保険への影響
退職給付金がある場合、退職後の手続きで注意すべき点がいくつかあります。 特に、失業保険との併用については影響が出るケースもあるため、申告ルールをきちんと理解することが重要です。
退職時に確認すべき書類と制度一覧
退職前後に必ずチェックしたい書類は以下の通りです。
- 就業規則・退職金規程(会社に制度があるかを確認)
- 退職時の説明資料(退職金の額や支給時期の案内)
- 離職票(失業保険の申請に必要、退職理由の記載に注意)
- 共済制度・企業年金の加入証(転職・年金請求時に必要)
これらの書類は、退職後すぐに手続きで必要になるものが多いため、退職前にコピーをとっておくと安心です。
退職給付金があると失業保険に影響する?
退職金や企業年金を受け取った場合、その金額や受取タイミングによって失業保険の支給開始が遅れることがあります。
特に以下のようなケースでは注意が必要です。
状況 | 影響例 |
---|---|
退職金を一時金として受け取った場合 | 一定額を超えると失業保険の給付が数ヶ月遅れる可能性あり |
年金形式で継続的に受け取る場合 | 月額で支給される失業保険が減額されるケースもある |
雇用保険の受給資格決定時には、離職票などをもとに退職金の有無や金額がハローワークで確認されます。金額や受取時期によっては、失業保険の支給開始が先送りされる場合もあります。
提出書類に不備や誤りがあると、給付の遅延や返還の対象となることがあるため注意が必要です。
まとめ
退職給付金は、会社の制度や勤続年数、退職理由によって支給条件や金額が大きく変わります。確定給付型(DB)と確定拠出型(DC)の仕組み、中小企業向けの共済制度も押さえておくと、退職後の備えがより具体的になります。また、失業保険と併用する場合は、給付のタイミングや金額に影響が出ることがあるため、事前の確認が欠かせません。
まずは、自分の会社の就業規則や退職金規程に目を通してみてください。制度を正しく理解しておくことで、退職後の不安や損失を最小限に抑えられます。